
今回は二重過程理論を解説します。
二重過程理論とは、人間にある2つの思考パターンを表した理論で、システム1は「直感的思考」にあたり、システム2は「論理的思考」を意味します。
本記事では、そんな「二重過程理論」の意味や原因、2つの思考パターンによって生じる心理の具体例や、そのメカニズムについて解説していきます。
二重過程理論とは
二重過程理論とは、心理学者である「キース・E・スタノヴィッチ(Keith E. Stanovich)」と「リチャード・ウェスト(Richard F. West)」によって、2000年に論文が発表されたことで心理学における思考のパターンとして定着した理論です。その後、心理学者および行動経済学者であるダニエル・カーネマン氏が一般向けに出版した書籍「ファスト&スロー」によって認知が広まりました。
意味は、人間が情報処理(認知)をおこなうさい、大きくわけて2つの異なるプロセス(過程・システム・モード)があるとされており、それぞれは「システム1(無意識)」・「システム2(意識的)」と呼ばれ、両者は「独立しながら同時に稼働している」と考えられていることを表した認知科学的諸理論のことをいいます。
- 異なる2つの思考過程がある
- 両者はシステム1・システム2である
- 1は、無意識的な思考で瞬時な直感に値する
- 2は、意識的な思考で論理的に考えるのに値する
- 1と2の両者は、同時に稼働し影響を与え合っている
まとめ:2つの異なる思考のプロセスが存在し、両者は「システム1・2(無意識・意識的)」と呼ばれており、同時に稼働すると考えられているのが二重過程理論。
このように、「人が物事を認知するときは上記2つの過程を経ている」と考えられるのが二重過程理論です。下記からは、それぞれの具体的な意味や詳細・特徴などについて見ていきましょう。
システム1(無意識・早い思考)
- 直感
- 自動的
- 体力を使わない
- バイアスがかかる
- 止めることが難しい
- 瞬時に感じて、連想しやすい
- 経験則で習得し、高速で使用する
システム1(無意識・早い思考)は、直感的で瞬時に働くため体力を使いません。また自らコントロールする感覚もないまま、物事を直感的に捉えたり「連想・発想」も同時におこないます。そのため意識的に止めることも難しく、得た刺激を無意識的に捉えて解釈し、行動や思い込み(バイアス)といった反応パターンとして、各々独自のものへ変化させていきます。
システム2(意識的・遅い思考)
- 使うのに体力がいる
- 最終的な決定権を持つ
- 通常時は記憶や注意力を担っている
- システム1で不可能な時に稼働する
- 論理的に道筋を立て、統計やデータで考える
システム2(意識的・遅し思考)は、基本、脳のエネルギー消費を避けるため待機しています。また、論理的に道筋を立てて考えたり、統計やデータ分析をおこなうのは「システム2」でないとできないが、それには体力や集中力などが不可欠となるため、うまく保てない場合、適切に稼働しなくなります。
さらにシステム2は、最終的な決定権を持っています。そのため、物事における決断は「システム1」→「システム2」という順番でおこなわれます。
ゆえに、システム1の段階で「答えが出た・納得できた」と脳が感じ錯覚してしまうことで、システム1での認知を「正しい情報だ」と思い込んでしまった結果、間違った選択や不合理な決断、バイアス(思い込み)が生じてしまうことがあるわけです。
システム1・システム2の特徴や違いを比較
二重過程理論の「歴史」
この理論の基礎(起源・基・由来)となったのは、1890年にウィリアム・ジェームズ(William James)氏によって用いられた「連想的推論・真の推論」だと考えられています。
彼は、この「連想的推論」と「真の推論」の2つがあると信じており、下記の通りに考え述べていました。
彼は経験的思考はアートやデザイン作業に使われると理論化した。ジェームズにとって、イメージや思考は過去の経験から心に浮かび、比較や抽象化のアイデアを提供するものである。彼は連想的知識は過去の経験だけから生まれると主張し、「ただの繰り返し」であると呼んだ。ジェームズは真の推論は、地図を使えるという推論の力が航行の障害を乗り越えるために使えるように、「前例のない状況」で役に立つと信じた。
ウィリアム・ジェームズ(William James)
引用元:Wikipedia
二重過程理論の「具体例」は?
- ハロー効果(例:システム1)
- ストループ効果(例:システム1)
- ロジカルシンキング(例:システム2)
- クリティカルシンキング(例:システム2)
1. ハロー効果(例:システム1)
ハロー効果とは、あるものを評価するさい、一部分の特徴に引きずられて、その他の評価も特徴と同じような評価になってしまう心理現象。例えば、顔が良ければ性格も良くみえたり、そうみたくなることはでしょう。また、このような印象(認知)を持ってしまうことがハロー効果となります。
上記のように、瞬時に物事の評価を特定の部分と同じようにしてしまう行為は、人間にシステム1の思考があるからだと考えられています。


2. ストループ効果(例:システム1)
ストループ効果とは、人が異なる意味の刺激を受けた場合、その刺激を処理(反応)するのに時間がかかってしまう心理現象。
例えば「以下画像にある文字の意味ではなく、色を瞬時に答えなさい」という問題に対して、多くの人は「文字の意味と色が一致している問題」と比較して回答に時間がかかっていまいます。
このように、違う刺激を同時に受けると、反応するのに時間がかかる現象をストループ効果といいます。
上記のように、ストループ効果は「直感的に色と文字は同じである」と思い込んでしまうシステム1が働くため生じる現象で、システム1が働く例としては体験しやすいことからも、良く理解できるのではないでしょうか。
3. ロジカル・シンキング(例:システム2)
ロジカル・シンキングとは、物事を論理的に思考し整理することを表します。
例:起こった問題(出来事)に対して「なぜその様になったのか?」という原因から「どの様にすれば解決できるのか?」という部分まで、具体的に「こうだから、こう」というように道筋を立てて、1つ1つ考えていくことを意味します。
このように「ロジカルシンキング」は、物事を1つ1つゆっくりと考えていくことを意味しており、私たちの仕事や私生活の重要な場面では、主にこうした考え方(システム2)を用いて対処しています。
4. クリティカル・シンキング(例:システム2)
クリティカル・シンキングとは、物事の現状に対して批判的に見たり考える思考を表します。
例:前提となる物事に対して「そもそも、これはなぜそうなるのか?」や「こんな方法でも良いのではないか?」といったように、前提自体を疑ってみたりあらゆる角度からの考え方で物事をみる行為を意味します。
この「クリティカルシンキング」のように、瞬時に考えるのではなく、あらゆる考え方を試行錯誤していくことは、システム2が働いた例といえるでしょう。
まとめ
二重過程理論とは、2つの異なる思考プロセス(システム1・2)が独立し稼働していると考えられている理論。
そのため、人間が物事を捉えるときは「間違った認知」に至ってしまうことも多々あれば、深く思考すればより良い結果や発見を生み出すことも多くあります。
一概に、どちらが「良い・悪い」ということはありませんが、その時に応じて臨機応変に対応できることが最も好ましいことだと思います。



本記事が、読者のお役に立てると幸いです。