自我消耗とは、精神や意志といったやる気などのエネルギーには「限りがある」ことを唱える理論です。
本記事では、自我消耗の意味や具体例、デメリットや適切な使い方についてわかりやすく解説します。
自我消耗とは
自我消耗とは、人間の精神(主に意志力・自制心の)エネルギー量は決まっており、キャパシティ(エネルギー量)を超える消耗があった場合、セルフコントロール(制御)が効かなくなる心理現象。
この理論は、1998年に社会心理学者のロイ・バイマウスター(Roy F. Baumeister)氏によって提唱された論文が起源で、現在では3000以上もの引用(実験や論文にて)様々な説が唱えられており、この説を否定する意見も多く見受けられるようになりました。
ロイ・バイマウスターとは
ロイ・F・ボーマイスター(1953/5/16)氏はアメリカ出身の社会心理学者。自己、社会的拒絶、帰属意識、セクシュアリティと性差、自制心に関する研究で知られる人物。
【経歴】
バウマイスターはプリンストン大学で学士号を取得し、デューク大学で修士号を取得しました。彼は指導者であるエドワード E. ジョーンズとともにプリンストン大学に戻り、博士号を取得しました。1978 年に大学心理学部を卒業。引用元:Wikipedia(ウィキペディア)
- 難題をこなした直後、また難題を強いられる
- 強いストレスに耐えた直後、再度ストレスにさらされる
- スタミナを多く消費する作業の直後、新たな課題が降りかかる
上記3つのように「精神的・肉体的に消耗すること」があった場合、1つや2つといった各々のキャパシティ内で対応可能なことは問題なくとも、それを超える量を求められると「感情的・衝動的・爆発的」な行動に陥ってしまったりなど、制限がきかなくなる現象を自我消耗と呼びます。
自我消耗の起源となった実験
欲求制御と意志力の継続
- 2つのグループを用意した
- 各グループは1つの部屋で待機するよう命じた
- 部屋には2つの皿を置き、それぞれに焼きたてクッキー・紅白大根を入れた
- グループAには焼きたてクッキーを提供し、グールプBには紅白大根を提供した
- 焼きたてクッキーを食べたグループAと、我慢し紅白大根を食べたグループBに難題パズルに挑戦してもらった
- どちらのグループの方が「継続的に根気強く取り組むめるか?」を観察した
- 結果:焼きたてクッキーを食べたグループAは根気強く取り組み、紅白大根のグループBは意志力に低下が見られた
- 実験結果では、グループAは19分間の時間パズルに取り掛かったが、グループBは8分間で諦めたと言われている。
ロイ・バイマウスター氏は、大まかに上記の内容通りの実験をおこない、自我消耗説の立証を試みました。
この実験では、グループAは多くの人が好むクッキーを食べれた一方で、グループBはクッキーを我慢しなければいけないという「自我を保つ行為」をせざるを得なかったため、後のパズルに影響したと結論づけられました。
また、バイマウスター氏は上記の実験と同時に「自我を消耗した状態を回復できるのか?」についても研究しました。
自我消耗した状態は回復するのか?
- 2人の被験者を用意する
- 1人は、ブドウ糖(グルコース)入りのレモネードを
- もう一方には、人工甘味料入りのレモネードを与える
- その後、無音声で女性の非言語コミュニケーション動画を見せる
- 女性の動作から、どのような意味を持つコミュニケーションか考えさせる
- その動画には、女性の動作とは無関係の羅列した単語を流し、集中が切れたらやり直させる
- 動画に関する3つの内容は、要するに回復(実験)前に疲労・疲弊してもらうためである。
- 結果:ブドウ糖(グルコース)入りのレモネードを飲んだ被験者は「一連のタスク」に間違いが少なく、人工甘味料入りを飲んだ被験者は間違いが多く見られた
前提として、脳のエネルギーとなるのはブドウ糖(グルコース)であるとされています。そのため、この実験は自我消耗を回復するにはエネルギー源となる糖が必要だと考えおこなわれたわけです。
またバイマウスター氏は、この実験結果から「セルフコントロール力は糖の接種により回復できる」と主張しました。
自我消耗に対する反論の数々とは?
- 実験が不適切だった?
- プラセボ効果による結果だった?
- 糖の働きによる回復も不可能なの?
- 概念自体が曖昧だという反論意見とは?
- 近年の2000人を対象にした研究では結果が得られない?
1. 実験が不適切だった?
そもそも、この実験は「自我消耗説を信じる者・認知資源は有限であると信じる者」の大半によっておこなわれたと言われています。
そのため、信じているものへの信仰心から、無意識的に実験と結果を結びつける内容だったと考えられています。ですから、実験そのものへの偏見・偏りが生じたために出た結果なのではないか?と反論派が後を経たないわけです。
確かに、この実験者側が「この仮説は正しいものであるだろう」と思う気持ちもわかりますが、精神的・肉体的といった何らかの労働をおこなうと疲れが生じることは、小学生でもわかる常識的なことです。
ゆえに、これは物事の原因と結果において「相関関係=因果関係ではない」ことを表した典型例だといえるでしょう。
2. プラセボ効果による結果だった?
プラセボ効果とは
プラセボ効果とは、偽の薬でも医者に出され、本物だと思い込むことで実際に効果をもたらす現象です。
例:お酒と思わせて水を飲ませると本当に酔ってしまうこと。
上記でも述べたとおり、実験をおこなった大半は「自我消耗説を信じる者・認知資源は有限であると信じる者」でした。
そのため、各々が信じる実験結果を強くイメージしてしまったことで、本来起きるはずの結果とは異なったと言われています。
3. 糖の働きによる回復も不可能なの?
また別の研究では、糖(グルコース)を摂取することにより、すぐに吸収されエネルギー源として働かせること自体、医学的に考えて不可能であるとの反論意見も述べられています。
4. 概念自体が曖昧だという反論意見とは?
そもそも「自我消耗」という概念自体、人間が生み出し考えた事象であるため、証明のしようがないと考えられています。
要するに、自我というのは「見えないもの・触れることができないもの」といったように感覚器官では感じ取れないものです。
そのため、概念自体が人間の生み出したものであり、現時点でこれを証明することは難しいというわけです。ゆえに、自我消耗説を「科学的な理論として説明するには曖昧なものであり過ぎる」という反論意見が唱えられています。
5. 近年の2000人を対象にした研究では結果が得られない?
近年おこなわれた2000人を対象とした研究では、確固たる証拠といえる結果は得られませんでした。
また、その他にも多くの科学者によって研究がなされていますが、同じように「バイマウスター氏の主張通りの結果は得られたかった」という事例の数々が存在します。
自我消耗に陥る理由
※ここでの内容は、あくまでこの説が正しいのであれば「現在有力な説としてあげられるのはコレだ」というものです。したがって、自我消耗説を肯定するものではありません。
システム2の使い過ぎ
人間の思考パターンにおいて「二重過程理論」というものが存在します。主にこの理論が意味するのは「システム1」と「システム2」という2つの思考過程の違いがあるとされており、前者と後者は大まかに直感と論理、感情的か非感情的かに分けられることです。
- システム1
- 直感的思考・感情的・即興反応
- システム2
- 論理的思考・非感情的・時間をかけた反応
自我を消耗してしまう理由の1つとして、このシステム2を使い過ぎることが考えられています。
前提として、二重過程理論における「システム1」はエネルギー消費量が少なく「システム2」はエネルギー消費量が多いと考えられています。
また人間の脳は「消費エネルギー」を少なくする傾向にあるため、二重過程理論においても「システム1の直感に頼りやすい・優先的に直感思考を選びやすい」という特徴を紹介しています。
ですから、人は物事において「これは重要な選択で、システム2を使わざる得ない」と判断したさいにのみ、システム2を使用すると考えられているわけです。
つまるところ「二重過程理論」内で述べた「思考過程の優先度」からもわかるように、エネルギー量には限度がある、もしくは使おうとしない・節約しようとする傾向が人間には備わっていると考えられるため、システム2を多用することが大変・難しいと感じることによって、自ずと自我消耗に陥る可能性も否定できません。
このような理由から、自我消耗はシステム2の使い過ぎによるものではないか?というのが一説にあります。
自我消耗の考えは「デメリット」になる?
自我消耗が存在するという考え自体が、さまざまな「デメリットを起因させる」と考える方も少なくないようです。
ここまで読んでくれた方の中には、すでに思い浮かんだことかもしれませんが「自我消耗は言い訳に使える」ということです。
自我消耗があることで、本来できる範囲のことでも「今は難しい・出来ない」といった思考へ変換されやすくなり、物事を行わない理由として使う人がいてもおかしくないでしょう。
また、このような考えに陥った結果、自身の生産性が低下してしまい、会社から見捨てられるリスクや社会活動においてデメリットを被る場合がいくつも考えられます。
そのため、自我消耗という考えや概念を自身の中にもつことで「デメリットとなる状況は避けられない」と考える方が多いというわけです。
まとめ
自我消耗とは、精神や意志といったやる気などのエネルギーには「限りがある」ことを唱える理論です。
そのため、自分の自我の容量と、消費の仕方を考えながら日々の生活に活かすことが先決でしょう。
それでは、最後まで読んでいただきありがとうございました。
本記事が、読者さんのお役に立てると幸いです。