後知恵バイアスとは、起こった出来事に対して「やっぱりそうなると思っていたよ」と、あたかも予測できていたかのような口ぶり・思考になる心理傾向。
本記事では、このような結果論であるにもかかわらず、まるで予測できていたかのように“思い込んで”しまう心理の意味や原因、具体例や対策方法について解説していきます。
後知恵バイアスとは
後知恵バイアスとは、物事や出来事などの結果に対して、初めから知っていた、もしくは予測できていたと過大評価(思い込み)をする心理現象。
例:人の失敗や間違い・良く無い出来事に対して「やっぱりそうなると思っていたよ」と発言し思い込むことなどに該当する。
後知恵バイアスは、バルーク・フィッシュホフ(Baruch Fischhoff)氏によって提唱、もしくは有力な実験がおこなわれたとされてる「認知心理学」における用語の1つ(認知バイアス(アンコンシャス・バイアス)の一種)です。
このように、起こった結果に対して「初めから分かっていた」と思い込むのが後知恵バイアスです。
後知恵バイアスの始まりは?
後知恵バイアスは、1970年代から研究がされるようになり、もっとも有名な実験をおこなった者、または提唱者とされているのは「バルーク・フィッシュホフ氏」だと言われています。
当時、大学生だった彼は、後知恵バイアスについて下記のように述べ、取り上げたとされています。
「私はずっと知っていた」効果(”I knew it” effect)。すなわち後知恵バイアス(Hindsight bias)である。
後知恵バイアスを証明した実験
これまで、後知恵バイアスを証明する実験は何度もおこなわれています。なかでも、もっとも有名なものは1975年におこなわれた「バルーク・フィッシュホフ(Baruch Fischhoff)氏」と「ラッシュ・ベイス(Ruth Beyth)氏」による実験です。
ここでは、その実験内容についてみていきましょう。
実験では、心理学を専攻する大学生に対して「米大統領のリチャード・ニクソン氏が北京とモスクワを訪問するさい、どのような行動を取るか?の行動予測をしてもらう」というものでした。
また、事前に行動予測のパターン(下記の3つなど)を用意し、その内容通りになる確率も予測してもらいました。
- ニクソン大統領が毛沢東議長に会う
- ニクソン大統領が訪問成功の発表をする
- ニクソン大統領にユダヤ人の数人が話しかける
最後に、ニクソン大統領の帰国後、予測してもらった被験者にあたらめて予測内容を問いました。
すると「もともと予測していたものの結果が事実となったものに対して、自身の予測していた確率が実際の確率より高くなる」という実験結果になりました。
例:訪問前は「1. ニクソン大統領が毛沢東議長に会う(40%)」と予測していたのに対し、事実となった帰国後には『「60%」ぐらいだろうと考えていた』という回答に変わっていたのだ。
要するに、実験で起こったことは「自身の予測は正しいもののはず。正しくありたい」といった考えから、実際の記憶を捻じ曲げて修正したということがわかったわけです。
また、このような実験結果から「後知恵バイアス」が証明されることとなりました。
後知恵バイアスが発動しやすい人の特徴は?
もちろん、後知恵バイアスは誰にでも陥る可能性のある認知バイアスですが「陥りやすい特徴」を持っている方もいます。また、そういった方は「日頃から注意しておく」というほうが、コミュニケーションにおいては良い結果をもたらすため、意識しておくほうが良いでしょう。
では早速、結論から申し上げると「自分は知識や能力面において、他者より優れている」という思い込みや考えなどの感覚を強く持つ方です。
このような人は、事が起きてから「自分を正しいものとする行為」を無意識におこなってしまうため、「ほら、やっぱりそうなると思った」と考えを修正し、後知恵バイアスにかかりやすくなります。
ですので、普段から感覚的に「自分は優れている」という思い込みを感じやすい方は、注意が必要かもしれませんので、気を付けておくほうが良いでしょう。
後知恵バイアスが起きる原因は?
- 欲求
- 不確かな記憶
- 利用可能性ヒューリスティック
1. 欲求
人間は「自分の考えが間違ったものでは無い」「自分が信じているものが正しいと思いたい」などといった類いの欲求をもつ生き物です。
そのため、出来事が起きたり結果が出てから「そうなると思ってたよ」という思考に変換されたのち、後知恵バイアスやそれに近しい現象が生じるわけです。
また、このような思考は無意識に働くことも多く、自分で気づくのが難しい心理現象でもあります。
2. 不確かな記憶
人間は、常に何かを考えていたり、意識しているわけではありません。そのため、ことが起こる前に「何をどう思考していたのか?」ということを忘れてしまいます。
ですから、ほんの一瞬の出来事の後でさえ「こうなると思っていた」と瞬時に変換してしまったり、記憶を書き換えてしまうことがあるのです。
また、このような一連のメカニズムが原因の1つとなって「後知恵バイアス」が働くと考えられています。
3. 利用可能性ヒューリスティック
利用可能性ヒューリスティックとは、取り出しやすい記憶を優先して物事の判断や選択といった意思決定をおこなう現象であり、心理用語の1つです。
例:特徴的な情報のみは覚えているが、それ以外は忘れてしまっているため、覚えている範囲のみで事実と捉えることなどに該当します。
つまるところ、意思決定をすることは脳に負担がかかるため、楽な方法で「物事の判断を行う仕組み」ということです。
また、人は普段から「利用可能性ヒューリスティック」や、それに近い方法で意思決定をおこなっています。
そのため「2:不確かな記憶」のような選択や考えに至り、後知恵バイアスが発動してしまうわけです。
後知恵バイアスの具体例・事例
後知恵バイアスの多くは、ニュースや報道といったメディアを「一般人が評価する場面」や「ネガティブ(不安要素)の絡む場面」などで生じやすくなります。
例えば、ニュースや報道で取り上げられた内容に対して「こうなると思ってたから、こうした方が良いんだよ」と発言してみる。
また、なんか頼りなく感じていた部下や後輩の失敗に対して「やっぱりミスすると思ったよ」と言ってみたりするなど。
そういった「状況や場面を見た事がある」もしくは「自分がやってしまった事がある」という方は多いのではないでしょうか。
そして、このようにニュースや何かを評価するとき、またはネガティブ要素の絡む場面では「後知恵バイアス」が働きやすくなっているのがお分かりでしょう。
それでは、下記からは「実際にどのような事例があったのか?」について見ていきましょう。
事例:お子さんの怪我
公園などを歩いていたりすると、親子で遊んでいる光景を見かけることがありますよね。この時、子供が転んだり怪我をして泣いたりすると「だから言ったでしょ!」と、とっさに怒る場面を見かけることがあります。
しかし、それが起こる前の親御さんの様子は「もう大きくなったし、大丈夫だろう」という風な感じで、かすり傷ぐらいなら、転ぶ程度なら、この年なら、といったような「何らかの安心感」を抱いているように感じます。
つまり、転んでもかすり傷程度なら「この子はもう大丈夫だろう・泣かないだろう」と、ある程度は自由にさせていると思われるのです。
しかしながら、実際の結果が予想と違ってしまえば「だから言ったでしょ!」と反射的に、言ってもないことや考えてもなかったことを発してしまいます。
このように、とっさに言ってしまう「知っていたかのような口ぶり」が後知恵バイアスの働く瞬間であり、親子関係におけるよくある事例です。
後知恵バイアスの「対策・改善・対処」の方法は?
ここでは、自分が陥らない対策・改善の方法を2つ、相手が陥ってしまったさいの「対処」する方法1つをご紹介します。まずは、自分自身への「対策・改善」方法からみていきましょう。
自分への「対策・改善」方法
- 認識を変える
- 答えにこだわらない
そもそも、自分への「対策・改善」をおこなうのであれば、自分自身と向き合い変わる事が最善の道です。しかしそれは、誰もが簡単に、そして直ぐにできるものではありません。
1. 認識を変える
自分への「対策・改善」方法の1つ目は、認識を変えるというものです。
具体的な方法としては、そもそも人間は「結果に流されやすい生き物である」ということを認識し、無意識に後知恵バイアスが働こうとしたとき「今、感じたことや思ったことは、結果論である」と、その場で認識を変えてみることです。
そうすることによって、無意識に変換していた「やっぱりね、言ったでしょ」という、相手に不快感を与えやすい発言や行動を避けることができます。
2. 答えにこだわらない
自分への「対策・改善」方法の2つ目は、答えにこだわらないことです。
そもそも人は、物事における最善の「方法・答え・考え」を探し求めてしまう生き物です。しかし、この世に完璧な人間などいませんし、誰だって間違いや失敗をおかしてしまうことはあるでしょう。そのため、許すことや「こんなこともあるよね」という気持ちを持つことが大切です。
また、その方法が「答えにこだわらない」というものであり、具体的には「別の答えや結果を考えること・1つの答えや考え、方法に執着しないこと・事が起きてからの発言は、結果論であること」を意識することです。
そうすることによって「答えにこだわらない性格・人格・考え」の類いに近づくことができるでしょう。
相手が陥ったさいに「対処」する方法
相手が、後知恵バイアスに陥ってしまった場合、決まった対処法として「コレ」というものはありません。
なぜなら、対処法は「その時の状況(時と場合)によっても違えば、相手によっても異なるから」です。
また、それら1つ1つを解説しようとすると2〜3個程度でおさめることは難しく、特定の状況下・相手のみに言えることしか解説できません。
そうなってしまうと、何通りもの対処法が現れてしまうため、ここでは、最も効率がよく相手や状況下に縛りがすくない方法を紹介します。
結論:後知恵バイアスに陥った相手には「なるほど、そう思ってたんだね」という風に、過度に触れないことです。
後知恵バイアスが働いた相手の解釈を変えようとしても、トラブルを引き起こしてしまったり、意志をより強固なものにしてしまうだけだからです。
そのため、前提として「相手を変えること」は不可能だと理解したうえで、自身が変わること(考えや捉え方を変える・改めること)が大切です。
また、その方法として「なるほど、貴方はそう考えるのね・そう感じたのね・そう思ったのね」という風な考えを持ちつつ、相手の受け取り方は「相手の課題である」ということを常に認識しておけることが理想でしょう。
そうすることによって、自身にとっても、相手にとっても、より良い結果にすることが可能となります。
まとめ
後知恵バイアスとは、事が起きてから「やっぱりね」と知っていたかのような認知を起こし、振る舞いや態度、言動に至る認知バイアスの一種でした。
そのため、自身に陥ると「デメリット」になりやすく、相手に陥ってしまったら「過度に触れないこと」が大切です。
それでは、最後まで読んでいただきありがとうございました。
本記事が、読者さんのお役に立てると幸いです。