返報性の原理とは、人間が何かを受け取ると「お返ししなきゃ」と思ってしまう心理傾向です。
本記事では、なぜこのような心理に至るのか?といった原因や心理の詳細、種類や具体例を解説していきます。
返報性の原理とは
返報性の原理とは、人間が行為や物といった何らかの物事を受け取ったさい、受けては「何かお返しをしよう」と思ったり自然とお返しをしてしまう心理現象です。
例:他者から『「親切・悪意・好意」など何らかの感情が含まれる行為』または『物理的な物』を受け取ったとき、その行為や物に対するお返しをしたくなったり、無意識的に返してしまうことに該当する。このように人は、何かをされたり受け取ると「お返しをしなきゃ」とか、何かしら返したくなる生き物なんです。
返報性の原理(または原則・法則)は、1960年に社会心理学者のアルヴィン・ワード・グールドナー(Alvin Ward Gouldner)氏が提唱したことで認知が広まった理論です。
返報性の原理の「実証実験・研究」は?
返報性の原理で有名な「研究・実験」は、デニス・リーガン博士によっておこなわれたものです。彼は被験者に対して、次のような実験をおこないました。
対象:スタンフォード大学の男子学生81人。
条件:見ず知らずの2人1組で、そのうち1人は仕掛け人。
実験内容:仕掛け人がコーラを買ってきて、帰ってきた際に美術館のチケットの購入を勧めるというもの。
このとき、「相手のぶんも買った場合」と「そうでない場合」の購入率を比較した研究。
結果:相手のぶんも購入したときは、そうでないときに比べて「チケットを購入してくれる確率が2倍も高かった」ということが分かった。
このような実験を行い、またその結果から『人間は何かをしてもらうと「お返しをしなきゃな」と思ってしまう生き物である』ということが明らかとなりました。
返報性の原理がはたらく原因は?
なぜ人は、何かしてもらったり物をもらうと、お返しをしたくなるのでしょうか?その詳細を調べたとところ、現在、明かされていない可能性が高いといえます。
しかしながら、原因の1つや可能性として高いものと考えられるのが「損失回避」です。
ここでは、その意味と理由について解説していきます。
返報性の法則:原因となるのは損失回避か?
損失回避とは、人間は利益より損失のほうに対して「過大評価してしまう(ストレスを感じやすい)」という心理現象。
人間という生き物は「社会的動物」であるため、貰うだけで「与えたり利益をもたらさない人」というのは、損失や危機を招く可能性が高いと考えられており、嫌われたり攻撃を受ける可能性があります。
実際に、旧石器時代の人々は「そのような思考のもと生きていた」と考えられていて、全く与えない、もしくはお返しをしない人と関わると「死に値する」と思われ除外されていたといわれています。
また、現代の私たちの本能にも「その名残」が残っていると考えられているため、与えなければ・お返しをしなければ除外されてしまうといった「損失」を回避しようと、返報性の原理が働くといわれています。
このように、受け取った瞬間から無意識に「お返しをしなかった時の損失」を感じてしまうため、返報性の原理が働くというわけです。
返報性の原理は4種類に分類される
- 好意の返報性
- 敵意の返報性
- 譲歩の返報性
- 自己開示の返報性
返報性の原理には、上記4つの種類に分類することができます。ここでは、それぞれについて見ていきましょう。
1. 好意の返報性
好意の返報性とは、好意を受け取ったり感じ取ることがあると、相手にも好意でお返しをしたくなるというものです。
例:初対面で親切にされたり笑顔で対応されると、自然と受けても笑顔になったり、親切心が芽生えたりしやすくなります。
このように、人はあらゆる好意を受け取ったり感じ取ったりすると、相手にも同様に返してしまいやすくなります。
2. 敵意の返報性
悪意の返報性とは、悪意を受け取ったり感じ取ると、自然と悪意で返したり、やり返したくなるというものです。
例:「初対面で感じの悪い人」に対しては、相応の対応(受けても適当など)になりやすくなります。
このように、人はあらゆる悪意を受け取ったり感じ取ったりすると、相手に返したくなったり、自然と同じような対応や適当なものとなりやすくなりす。
3. 譲歩の返報性
譲歩の返報性とは、様々な場面において譲歩することで、相手もそれを返してくれたり、自分もお返ししたいと思うことです。
例:会話や議論が起きたさい、自分の意見や考えだけを言ったり、押し通したりするのではなく、他者の意見や発言にも耳を傾けたり、時には譲ったりすることで、適度に折り合いがつきやすくなるでしょう。
このように、人は相手が意見や考えを譲歩してくれると、自分も返したいと思うようになったり、意見や考えをあらためてくれるようになります。
4. 自己開示の返報性
自己開示の返報性とは、相手が自分のことについて話してくれると、自分自身のことを「話そう」と思いやすくなるというものです。
例:「初対面の人と話をする」というとき、自分の話を極力しないようにしていても、相手が少し自分の趣味の話などをすると、自分も持っている趣味の話をしようかなと思ったり、つい話してしまっていたということがあるでしょう。
このように、人は相手が自分のことについて話してくれると、自分自身のことも相手に話したくなります。
返報性の原理の事例・具体例
- 洋服の試着
- ウィンナーの試食
- ドア・イン・ザ・フェイス
ここでは、日常に隠れている3つの「返報性の原理」を見ていきましょう。
1. 洋服の試着
試着をするところまでいくと「買わなきゃな」と思ってしまうことはあるでしょう。
これにも、返報性の原理が働いています。試着前には、会話をしたり話を聞いてもらったりすることで、行為(好意・親切心)を受け取ってしまいます。また試着後には、さまざまな意見を聞くでしょう。
こうした過程によって「借り」を感じてしまったお客さんは、「買ってあげることでお返ししよう」と思いやすくなります。
2. ウインナーの試食
スーパーでよく見かけるウインナーの試食、これにも返報性が働きます。
自分、もしくはお子さんがウインナーを勧められて食べることにより、「買わずに帰ると申し訳ないな」と感じてしまいやすくなります。
このように、返報性を利用して商売をする方法は、他にもいくつかあります。その一例が、下記の「ドア・イン・ザ・フェイス」です。
3. ドア・イン・ザ・フェイス
ドア・イン・ザ・フェイスとは、営業などでよく使われる心理テクニックの1つ。これは、最初にあえて難しい要求をし相手が断ることによって、その後の控えめな要求を通しやすくするというもの。
このテクニックは、返報性を応用したもので、一度断らせることにより相手は申し訳なさ(返報性)が働き、その気持ちを利用して商品の購入を促すものです。
まとめ
返報性の原理とは、人間が何かを受け取ると「お返ししなきゃ」と思ってしまう心理傾向です。
日常生活に当てはめて考えると、思い当たる節がある方も多いのではないしょうか。
人間には、このような心理作用や傾向があることを覚えておくと、ポジティブな捉え方やトラブルの対処にも役だったすることがあるので、覚えておくと役立つことがあるでしょう。